ミクストメディア


「私たちの活動は何か一つの形態に絞られたものではない」



Chim↑Pom from Smappa!Groupインタビュー



英文原文: ニコラ・トレジィ
日本語原文:Chim↑Pom from Smappa!Group
和訳:蟹村 海



SUPER RAT
2006, 2011
Photo: Yoshimitsu Umekawa
© Chim↑Pom
Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production

「静と動の絶妙なバランス」。東京を拠点に活動するアーティスト・コレクティブのChim↑Pom from Smappa!Groupを形容するに、他にふさわしい言葉は見当たらない。エネルギッシュで、時に過激な印象を与える作品だが、その裏には現代の生活にひっそりと横たわる冷たいテーマが隠されている……かと思えば、別の作品では新型コロナウイルスによって変わらざるを得なかった「街」に注目し、定まることなく転がり続ける未来を繊細に切り取ってみたりもする。我々が見落としがちな社会の小さな歪みを見つけ、絶妙な温度感でアプローチしていく様子は、見ていて全く飽きがなく、むしろある種の中毒性がある。世の中が少しでもおかしくなり続ける限り、Chim↑Pom from Smappa!Groupの躍進は永遠に続くはずだ。そんな彼らに結成のきっかけから、作品にまつわる疑問まで、様々な質問をぶつけてみた。



東京を拠点に活動するアーティスト・コレクティブのChim↑Pom from Smappa!Groupに、自分たちのスタンスや作品作りについて率直に語ってもらった。
ニコラ・トレジィ: Chim↑Pom from Smappa!Groupのアイディアは、ビデオから彫刻、インスタレーションからアクションまで、様々な言葉で具体化されています。ANOMALYのオープン記念となった個展「Grand Open – Marvelous Liberation –」*は、非常に多様な感性の一種のマニフェストだと感じました。Chim↑Pom from Smappa!Groupはどのように作品を制作しているのでしょうか? またアウトソーシングに頼ったり、メンバー内で分業などを行なったりしているのでしょうか?

稲岡: 作品制作は昔も今も変わらず、週に何回かメンバー同士、オンラインや直接会ってアイディア会議をして、制作スケジュールを決め、設定した日時までに間に合うように制作していきます。制作の外注はあまりしません。外注先とちゃんとコミュニケーションがとれないと、思い描く仕上がりにならないこともあるからです。それに、私たちは初めからチームなので、拙いながらもそれぞれが得意な分野を担当して制作してきたし、だからこそできた、というところもあります。それでも外注する時は、欲しい技術を持った友達やその友達など、個々の繋がりを頼ることが多いです。私は実制作に関わることが多いので、友達や知り合いに特に助けられています。

私たちがChim↑Pom from Smappa!Groupを始めた当初、美術が好きで面白いことをしたいという以外、思想や美術教育のような背景を一切共有していませんでした。長い制作活動の中、手探りで制作しつつも、少しでも良い制作ができるようメンバー内の分業的な動きが何度も試されていきました。その意味で、今はかなりチーム内の分業がはっきりしている方だとも言えます。担当がはっきりした分、より短い時間でクオリティーの高い制作ができるようになりましたが、メンバーのパーソナリティーの違いをより反映した制作は難しくなりました。「グランドオープン」展*で「多様性の表現の極み」と言っていただきましたが、Chim↑Pom from Smappa!Groupの多様性というか、バラバラな本当の面白さはまだ全然出せていないと感じています。仮に「多様性」を表現できていたとしても、それは長年培った技術の範囲内で、さらに本質的に多様で面白いことがChim↑Pom from Smappa!Groupにはできると、メンバーながらわくわくしています。

*2018年11月に東京都品川区のギャラリー「ANOMALY」で行われた個展。Chim↑Pom from Smappa!Group独自の視点で展開した東京のリアルな「都市論」を表した。





Chim↑Pom from Smappa!Group 
Photo: Seiha Yamaguchi


ニコラ・トレジィ: ジェンダー問題もChim↑Pom from Smappa!Groupの表現活動に組み込まれており、それらの作品もいくつか作られていますね。作品は唯一の女性メンバーであるエリイがミューズ、インスピレーション、視覚資料のいずれかとして存在していますが、そのような内的な動きを概念的に伝えることはできますか?


エリイ: 「エリイ」はジェンダーとは関係なく私の性格によるところが大きいです。メンバーの1人がもう1人の綱を引っ張り、その綱を他の1人が横から碇で引っ掛けて引きずりその碇をもう1人が上から釣って投げたあとに1人が手繰り寄せて1人が綱を巻く。皆でそれを運ぶ。力の均衡は15年ほどこのような関係を続けて響き合ってきました。

ニコラ・トレジィ: 東京電力福島第一原発の事故による帰還困難区域内で始めた長期的な国際展示「Don’t Follow the Wind」は、同地の建物に展示されており、現在も一般の方々がアクセスすることはできません。Chim↑Pom from Smappa!Groupは、ジャーナリストたちがあえて足を踏み入れなかったその場所に入ったわけですが、健康上の心配はなかったのでしょうか?

卯城: 初めて現在の帰還困難区域あたりに行ったのは、原発事故の直後でした。それはもう不安以上に恐怖でした。当時の日本では、放射能といえば、まだ広島や長崎であった長期にわたる健康被害のイメージも強かったので。それに、私たちがアニメやSFで見ていたようなゴーストタウンが現実にできてしまった。その風景を目の当たりにしながら中に入るというのは、恐ろしい体験でした。






REAL TIME,
2011 
©Chim↑Pom
Courtesy of the artist, ANOMALY, and MUJIN-TO Production
ニコラ・トレジィ: 同展はキュラトリアル・プロジェクトですが、ある種の文化的、政治的な介入もあります。プロジェクトを進めるにあたった前提と、これまでに導き出した結論について教えてください。

卯城:
この災害は津波被害のように、数年で街を復興させられるようなビジョンを描けるものではありませんでした。2011年のタイミングでレスポンスした作家は多くいましたが、数カ月ごとにその辺りに通っているうちに、その街や住民の喪失感や空白が、もっと超長期にわたり続くことを考えるようになりました。そこから時間というものがテーマの一つになり、国内だけの問題ではないことから国際的なアプローチが必要になり、「Don’t Follow the Wind」(2015年~)は発案されました。アイディアがふっと降りてきたのは、たしかニューヨークの自然史博物館の行列に並んでいたときです。

そこから3組の国際的な枠組みのキュレーターを選び、実行委員会を立ち上げましたが、打診したどの美術機関からも協力を断られ、2つの財団からは福島を扱うこと自体が政治的だと問題視されました。そんな中でも、立ち上げ資金として私たちの作品を購入してくれ、その後Chim↑Pom from Smappa!GroupからDFWに同額を寄付してくださった方と、なによりも現地の方々の協力には感謝の気持ちを持っています。同時に日本のアート機関には絶望感を抱きましたが。

プロジェクトが始まって7年が経ちますが、展覧会は帰還困難区域の状況や自然の影響で変化し続けています。会場は5箇所に渡り変わり続け、一つの作品は会場のたて壊しとともに壊され、無くなりました。野生動物の影響も大きいですが、人間が観に来られないこの展覧会に、動物や植物がアプローチしている様は、メンテナンスに入るたびに興味をそそられます。区域内の生態系もだいぶ変わってきています。どのような形で一般の観客に見せることできるのかは、変わり続ける状況に対応し続けていくなかで決まっていくでしょう。よってこのプロジェクトにとっては、「ある時点での結論」というものが「次の時点での不正解」になることもあり、その逆もあるので、何かを結論づけることは不可能ですね。ただ一つ言えることは、このプロジェクトが存在し続けていることは、帰還困難区域という世界の実態にアートが関わり続けているたった一つの証左です。この事実に私たちは、きっとずっと影響を受け続けているのだと思います。



KI-AI 100, 2011
© Chim↑Pom
Courtesy of the artist, ANOMALY, and MUJIN-TO Production


ニコラ・トレジィ: Chim↑Pom from Smappa!Groupの「現地特有」の概念と作品との関係性に対する私の関心は、Chim↑Pom from Smappa!Group結成の場所である東京でも続いています。この素晴らしい場所はプロジェクトにも大きな刺激を与えているようで、その活動は間違いなく強い「メトロポリタン」な一面を帯びています。もし東京が舞台でなければ、いろいろな種類のアートを作っていたと思いますか?

林:すでに東京以外でもこれまで様々な都市、場所で滞在制作してきています。それぞれの土地の特色はあると思いますが、どれもChim↑Pom from Smappa!Groupらしいものを制作できたと思っています。

もちろん、今のところメンバーは東京に住み、生活しているので東京を舞台にした作品は多いです。しかしそれは単に作品制作の上で自分たちとの関係、接点が多いということの証。作品を作る上で自分たちとの関係、接点というのはとても重要だと思っています。逆を言えば接点さえ見つかれば、南極でも砂漠でもChim↑Pom from Smappa!Groupらしい作品を作れると思います。

ニコラ・トレジィ: 東京をメインのミューズとして制作を続け、政治またはコミュニティーベースのアートの定型表現から完全に切り離された方法で、コミュニティーとジェントリフィケーションの概念を混ぜ合わせた「にんげんレストラン」のようなプロジェクトを行いました。アートの世界でなく、「現実世界」におけるこのプロジェクトの存在について説明してもらえますか?

卯城: 私たちはあまり現実世界とアートの世界を分けて考えていません。もちろん非現実な世界はアートにとっては必要なので、作品によってはそういう手段をとることもありますが、そもそもそこまでその2つの世界をキッパリと分けて作品や活動について議論したことすら記憶にありません。しかし、私たちのこれまでの習性をみると、やはり圧倒的に現実世界に魅了されているという傾向があるようです。それは多分私たちが作品を通して見せているものが、社会やアートの問題の是非ではなく、様々なことが起きる「現実や人生に、翻弄されている個人の姿」だからかもしれません。



Making the Sky of Hiroshima “PIKA!”, 2009
© Chim↑Pom
Photo: Bond Nakao
Courtesy of the artist, ANOMALY, and MUJIN-TO Production

ニコラ・トレジィ: 私の好きなプロジェクトの一つは、捕まえた野生のネズミをポケモンのメインキャラクターであるピカチュウに仕立て、様々なシナリオで見せていく「スーパーラット」です。皮肉が滲む作品でありながら、非常に深い社会問題に根ざしており、世界の各都市で展示したときにどのような反応があったのか気になりました。

卯城: 「スーパーラット」(2006年~)は結成からずっと今もChim↑Pom from Smappa!Groupのセルフポートレートです。社会がどうであれ、街がどうであれ、彼らや私たちはその新たな環境に適応して生きていくことができます。ご質問のようにこれまで世界中で作品を展示してきましたが、このように根本的な問いを投げかけるネズミに対しては、誰が見ても同様の共感と畏怖、嫌悪感や親しみを持つようです。それほどにネズミとの関係からは、人類の感じ方に差はないように感じますね。



SUPER RAT
2006, 2011
Photo: Yoshimitsu Umekawa
© Chim↑Pom
Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production








Chim↑Pom
SUPER RAT
2006, 2011
© Chim↑Pom
Courtesy of the artist, ANOMALY, and MUJIN-TO Production

ニコラ・トレジィ: Chim↑Pom from Smappa!Groupは、有名かつ挑発的な現代芸術家の会田誠氏をきっかけに結成されました。エリイは美術学校に通っていたというバックグラウンドを持つ唯一のメンバーですが、アートを作ると決めたときは彼のスタジオに入り浸っていたようですね。どのような経緯で会田氏と過ごすようになったのでしょう? 初期の頃やインスピレーションを感じた瞬間を細かく思い出せますか?

岡田 : 会田さんを通して「現代美術」というジャンルがあると知ったことが、そもそも大きい事柄な気がします。2000年代を生きる日本の若者で、美大に行かずに現代美術を知る機会なんて皆無、というか奇跡に等しいので、なんか面白いことをしたいなってだけのポンコツだったChim↑Pom from Smappa!Groupのメンバーそれぞれが、実物の「会田誠(現代美術)」という入口を介して出会うのはある意味必然だったでしょう。

Chim↑Pom from Smappa!Groupはもともとバンドを組んで音楽活動していた卯城と林を中心に結成されましたが、その時メンバーによってはただの顔見知り程度の関係だったこともあったので、「Chim↑Pom from Smappa!Group」というよくわからないものをお互い手探りで追い求めて作品作りをしていた印象があります。ちなみに、まさか15年以上も活動を続けるとは誰も思っていなかったし、「Chim↑Pom」という名前が日本ではとても恥ずかしい名前であることもなあなあでスルーして今に至るのも、当時のメンバーの心境の名残と言えるでしょう。

ニコラ・トレジィ: 自身を「アーティスト・コレクティブ」と定義していますが、あなたの作品は展示会制作やキュレーションだけでなく、アクティビズムも含まれており、芸術制作をはるかに超えています。大きく展開した活動をどのように組み立てていますか? また、「アートメイキング」という規定のもとにそれらを見ていますか?

卯城:「アーティスト・コレクティブ」はただの肩書きなので、Chim↑Pom from Smappa!Groupの「定義」ではありません。ご質問の通り、私たちの活動は何か一つの形態に絞られたものではありません。そもそも完全にバラバラな価値観を持つ6人で活動しているので、「展覧会じゃなきゃいけない」こともないですし、「アクティビズム」こそが目的ということもありません。ヴィジュアル・アートを作りますし、ミュージシャンやパフォーミング・アート、ファッション、デモ、レストランなどのプラットフォームを作ることもあります。そのようなパーティーの主催やコラボレーション自体も、アート業界が言うところの「キュレーション」には収まりません。書籍の刊行数も多いですし、ショップもやる。多岐に渡る活動を客観的に「アートメイキング」と言うことも可能でしょうが、実際のところ私たちメンバーにしてみれば、アートであれ何であれ、いつまでも定義が定まらない「Chim↑Pom from Smappa!Groupという何かの永遠の素人」のような有機体を、「Chim↑Pom from Smappa!Groupのプロ」として作り続けているだけ……。ご質問にのっとれば、主観的には「Chim↑Pom from Smappa!Groupメイキング」というくらいの方がしっくりきます。



Chim↑Pom from Smappa!Group

卯城竜太・林靖高・エリイ・岡田将孝・稲岡求・水野俊紀により、2005年に東京で結成されたアーティスト・コレクティブ。「ヒロシマの空をピカッとさせる」(2009年)「The other side」(2014年~)「にんげんレストラン」(2018年)、「May, 2020, Tokyo 」(2020年)など、現代社会に切り込むクリティカルな作品をはじめ、時代のリアルを追求したアートを次々と発表している。

http://chimpom.jp/

SHARE ︎︎︎  FACEBOOK  |  TWITTER  |  WHATSAPP  |  LINKEDIN




© 2023 Zettai